作品タイトル
届かなかった、明日
作者
水上恵翔
作品本文
平成23年3月11日 東日本大震災によって
多くの明日が奪われた
あの日は休日で 俺は海岸沿いを歩いていた
突然 地面が大きく揺れて足元がぐらついた
避難に遅れた俺に いつもは穏やかな海が
表情を変えて襲いかかってきた
大津波に流されて 身体が何度も回転した
その中で1度だけ 3秒くらいだったか
身体が仰向けの状態になって 空が見えた
「俺 このまま死ぬのか」
「死にたくないよ 俺 死にたくない」
そう思いながら言葉にならない声をあげて
必死に右手を伸ばしたんだ
福島の綺麗な空と 明日という未来に向けて
俺は ちゃんと人を愛せたか ?
俺は どれだけ人を憎んだか ?
俺は たくさん笑えたか ?
俺は 自分に正直に泣けたか ?
俺は 何かをやり遂げたか ?
俺は ちゃんと自分を愛せたか ?
父ちゃん 母ちゃん ありが——…
・・・・・・・・・・
あれから もう何年が過ぎただろう
泣かないでお前を思い出せる日は来るのだろうか
もし もう1度逢えるなら
言葉はいらない
ただ 抱きしめるだけ
今を生きているすべての人に気付いてほしい
今日という日は 昨日 本当に明日を生きたくて
それでもこの世を去った人たちの残していった
輝かしい未来
だからこそ 生ききってほしい
素敵な明日が迎えられるよう
2度と戻ってこない昨日を後悔しないよう
最後の1秒まで——。
作品ジャンル
詩
展示年
2023
応募部門
自由作品部門
作品説明
罪を犯し刑務所に入ってまで、のうのうと生きている自分自身が情けなくて、「明日を生きたくても生きられなかった人たちは、こんな僕をどう思ってるんだろう」という気持ちから、この作品は産まれました。
その「生きたくても生きられなかった人」を、東日本大震災で被災した親子の物語として表現し、二人の立場になりきり感情移入をして書きました。第7連で「今を生きているすべての人に気付いてほしい」と言葉にしてありますが、あくまでこの連から先の言葉は架空の登場人物を通して今の自分自身に訴えかけたものです。
第1連から第5連までは、犠牲となり命を落とした息子の最期の物語。第6連は遺された父親の心情を。第7連から第9連にかけては、父親の立場を借りて、「今を精一杯生きることの大切さ」を、自分自身に訴えかけました。