作品タイトル
あの頃の光
作者
S-KATTO
作品本文
私の大切な時間。私にとって大切な時間と言われて思い浮かぶことは3つ。 1つ目はホームレスの源さんとの出会いである。
10代後半の私がとある公園に行くと、ゴミ箱に頭を突っ込んでいる人がいたので私はその人に「何しとんの」と声を掛けました。
その人はいきなり自分の頭をおさえてうずくまり、大声で「やめてくれ」と言いました。そうこれが源さんと私の出会いのきっかけです。
私は源さんに「何もせんよ」、「どうしたん」と聞きました。
源さんは前に少年になぐられたりしたことがあり、またなぐられると思ったそうです。私はその後度々源さんとメシを食べたり、銭湯に連れて行った。服をあげたりしたり、食べ物やタバコ代のお金をあげたりしていました。源さんはよく言っていました。「生ゴミを食べてでも生きたい」、「ありがとう」と。 私は人を殺して刑務所にいます。
私は生きる大切さを誰よりも知っていたのに人を殺した大罪人です。
被害者の方も生きたかったはずです。私は源さんに「ありがとう」と言われた自分に戻りたいです。そんな私も後何年かしたら20年以上服役を終えて社会へ戻ります。それまでにあの頃の自分を取り戻す為に現在受刑生活を送っています。
2つ目は、子供の頃に近所にあった老夫婦が営むパン屋さんです。
私がパン屋の前を通ると「○ぼう」と言っていつもパンを持ってきて「ママにないしょだよ」と言って私にくれました。その後私が引っ越してしまったのですが、10代後半の時にその街に行き老夫婦のパン屋さんへ会いに行ったのですが、そのパン屋さんは閉店していてありませんでした。老夫婦がくれたパンはいつもメロンパンでした。
そのメロンパンの味が恋しくて今まで色々なメロンパンを食べてきましたが今だに出会えずにいます。
出所後、そのメロンパンの味を自分で再現して他の人に食べてほしいという夢が私にはあります。
メロンパンは私にとって思い出の味であり一番好きなパンです。
そして3つ目は幼なじみの亜由美という女性のことです。
亜由美は生まれつきHIVのキャリアでした。発病して悪化してゆく中、私は毎日の様に病院に行きました。日に日に亜由美はやつれて行き、会いに行っても薬のせいでもうろうとしている時もありました。それでも私の前では涙もみせずにいつも笑顔でした。亜由美が亡くなる前に私にこう言いました。「私のことを忘れないでね」「ありがとう今まで」と。その時の初めて私の前で涙を流していた亜由美の姿が忘れられません。
私の大切な時間、あの頃の光ある日々のことを私は忘れることはありません。
作品ジャンル
エッセイ
展示年
2023
応募部門
課題作品部門
作品説明
自分にとって大切な思い出について書いてみました。
自分は大罪人ですが、自分にも人の心はあったのだと知ってもらいたく書きました。