作品タイトル
あなたへ
作者
パレタ・レイ
作品本文
前略 あなたへ
肌寒い秋の夜、警察署の無機質な廊下で、私の足に 泣きじゃくりながらしがみつくあなたと離ればなれになって早10年。この10年という節目にこうやってあなたに手紙を書く機会に恵まれて、私は本当に嬉しいです。でも、それと同時に怖さ、とは少し違うのだけど、何か心の中の葛藤のようなものと慎重に対話しなければならない現実に辟易しています。私は相変わらず、あの頃の心の弱い人間のままなのです。こうして筆を進めている今でも、「パパ行かないで」と必死に訴えるあなたの声や表情が鮮明に思い起こされて手が震えてしまう程弱いまま。
あの時、あなたは4才になったばかりだったから今はもう中学生になっているのですね。引きとられた児相から里親の所へ預けられたと聞いているので、学校へは行けて良かった。
中学は楽しいですか? 今時はやはり、Tik Tokやインスタなどで色々な人と繋がって遊ぶのでしょうか。あなたは明るい性格だったから、きっとたくさん友達がいるのでしょうね。
勉強は大変ですか? 私も、あなたの母も、勉強はけっして得意な方ではなかったので、もしかしたらあなたも苦戦しているかもしれませんね。でも、きっと大丈夫。少しずつ、自分のペースで進めていけばなんだってできてしまうものです。
私はそのことに刑務所に来て数年たってから気付いた。
今では週に4冊以上は本を読んでいます。もっと早く気付いていれば、なんてタラレバの後悔を私のようにしないようにね。
後悔と言えば、私は刑務所に来て、なんでこんなことになったのだろうと考える事が本当にたくさんあります。
どうしてあの時、なぜこの時に、考えだしたらキリが無く、時間を巻き戻したいと何度も思いました。そして、そんなことを考えているといつも思い出すのはあなたが生まれたときのことでした。少年院から出ても暴走族気分が抜けず、半グレのような生活を私がしていた18歳の時、あなたは生まれてきてくれた。あなたの母は17歳だった。
あなたがこの世に生を受けた10月のあの夜、私はそれこそ天にも昇るような気持ちで喜び、幸福に包まれていました。なんの不自由のない幸せな家族を思い描き、私はあなたと共に成長していける喜びを感じていました。だけど、私はあなたの成長するスピードについていくことができませんでした。いや、多分私は、決意と覚悟を持って立ったスタートラインから一歩も進んでなかったのでしょうね。
あのスタートラインにもう一度立つことができたらどんなに良いことでしょう。でも、どんなに後悔をしてそれを願ってみたところで時間が戻ることはありませんでした。
幼少の頃から両親がいない生活がどれだけ辛く悲しいものなのか、どれだけの精神的ダメージを与えてしまったのか、その痛みは私なんかの想像を遥かに超えるものだと思います。本当にごめんなさい。もちろん簡単に許されることではないのは重々承知しています。
あなたとはおそらくもうこの先逢えることはないだろうし、もしその機会があってもあなたはきっと拒否すると思います。それは当然のことだと思うし、私でも同じようにすると思う。だから、私はあなたへの想いをここに綴ります。
これは私のエゴになってしまうかもしれない。でも、想いだけは伝えさせて下さい。
私は、あなたと共にたくさんの素敵な時間を過ごすことができて本当に幸せでした。こんな私のことを、小さな体で、小さな手で、抱きしめてくれて本当にありがとう。私はとても嬉しかった。あなたと過ごした数々の時間は私の大切な思い出です。 一生、忘れることはない。
どうか、楽しく、明るい人生を歩んで下さい。私にいつも向けてくれた最高に素敵な笑顔で周りに元気を与えて 下さい。
もしかしたら、あなたは私のことなど覚えていないかもしれない。それならそれで、私は全然構わない。
それでも、私はあなたのことを想い続け、幸せを願い続けています。
取り留めのない文を長々と書いてしまってごめんなさい。色々な思い出や感情があふれ出てきてしまって、整理をするのに手こずってしまいました。
今回は、この辺で失礼しようと思います。
最後なのに、ありきたりなことしか書けませんが、これからもお元気で。妹と一緒に必ず幸せになってね。
あなたが大好きだったアナとエルサのように。バイバイ。
草々
作品ジャンル
手紙
展示年
2025
応募部門
テーマ部門①「あなたへ」
作品説明
逮捕から10年という節目の年だったので、自分の中の気持ちを文章にしてみようと思いました。苦労したことは、10年間自分の中にあった感情や想いをどう表現したらよいか考えたことです。伝えたいことは、私のような半グレ者でも、子供に対する愛情は世間一般の人達のように持っているのだということです。