受刑が生んだ雑文 – ミサキ






受刑が生んだ雑文

作者

ミサキ

作品本文

私はコロナに係るお金の不正取得に携わった結果、某社会復帰促進センターで服役している。恵まれた処遇環境に感謝しかなく、自庁の職業訓練に参加して資格を取得、出所後の就職先まで内定した。温かい刑務官らに支えられ、この上ない社会復帰への道を歩ませてもらっている最中である。
出所の目途が立ってきたことから、受刑経験について考えることが増えた。 刑の執行を終えると、受刑者身分は消えて元受刑者になる。元受刑者の肩書きは、刑の免責を経てしても一生消えることはない。
それならば向き合おう。私の受刑経験を昇華させ、役に立つ術はないか考えたことを雑記する。

思案 1
よくあるのは獄窓記としての発表、書籍化だろう。しかし、競合が多いうえに、当センターの快適話を書いても、不満話を書いても、叩かれるのが目に見えているではないか。早々に考えることを放棄した。

思案 2
やはり現実的な事柄であるに越したことはない。 昔に大阪刑務所の絨毯工場を取り上げた記事を見たことがある。そして、大阪刑務所に勤めていた職員が当センターにいることから、直接話を聞くことができた。
要約すると、刑期の長い受刑者が配役される工場で、無二の縫製技術を持っているとのこと。職人の後継者問題が深刻な現代において、塀の中という特殊な環境だからこそ、技術が風化せず伝承できているのだと推測する。
このことから、労役作業に技術の伝承・補完という高尚な価値を見出すことができる。 人生の多くを塀の中で過ごす受刑者の尊厳を保つ労役作業を提供することが可能となり、ゆくゆくは無二唯一の独占技術に成りうる。こんな土壌は社会に存在しない。
刑務所だから成立する話であるから、社会資源として活用しない手はない。

思案 3
なんといっても、喫緊の課題は再犯率の高さであろう。当センターでも再犯防止策として、教育・職業訓練・就労支援に力を入れていることが窺える。就労=再犯防止と掲げるのならば、いっそ仮釈放の審査基準に就労先の有無を明言してしまえば、皆懸命に就活するだろうに。それぐらい再犯率は異常である。
以下 私の考える再犯防止策を 「就労」と「啓発」に分けて述べる。

「就労」
私自身の就職内定までに多くの障害が存在した。人手不足が叫ばれる昨今において、刑務所は人材資源としての側面を持っていながら、何故就職率が低いのか考察する。
刑務所では施設毎に宛てられたハローワーク求人票を取り扱っているものの、就労状況は芳しくない。受刑者は刑の確定後に全国各地の刑務所へ移送されるため、勤務地のミスマッチが多く、求人票から読み取れる情報が少ないこともあって、就労に至るケースは稀である。在所中に就職先を決めることについての働きかけはなく、求人票の見方が分からない者も多いことから、活用されているとは言い難い。それなのに、当センターの求人件数を控えていると月102件の求人票が届いていることに驚く。 (R4.11~R5.10)
邪推すると、企業は「健康な働き手を費用をかけず、安定的に確保したい」。 受刑者は「希望条件から企業を選びたいし、何なら企業に必要とされたい」。そして、刑務所は「就労が増えることは喜ばしいが、これ以上業務を増やして欲しくない」といったところではなかろうか。
個別に見ると一蹴する内容だが、【就労を促進させること=企業と受刑者の情報の橋渡しを担うこと】ができれば三方良しが実現できると思い、PHR(プリズン・ヒューマン・リソース)案を提案する。(内容は別紙参照)
これは、企業が求職者に直接アプローチするスカウト型の採用手法ダイレクトリクルーティングを模したものだ。数ヵ月を要する就活となるため、取り急ぎの対応は考えにくく、DBの更新・オファー連絡は数ヵ月に1度で成立する。ESを反映するDB構築は、スプレットシート等の既存サービスで事足りることから、初期投資は少ない。受刑者の個人情報取り扱いについては、氏名・収容施設(住所)のみとして手紙の発に使用し、他へ公開することはない。
以上のことから、運営は比較的容易でメリットが多く、デメリットが考えにくい。本提案の強みは、既存機能の強化・補強にある。他の方策、支援団体及び媒体と共存共栄することが可能でありながら、刑務所毎の人材情報や
就労ニーズ等の今までにないデータの収集が見込める。ノウハウを確立すれば、再犯防止へ有効な新しいアプローチができるのではなかろうか。

「啓発」
知性に自信がない人は、根拠のない噂話や裏っぽい普通の情報に引きつけられがちである。塀の中だと拍車が掛かる。苦労して表の知識を学ぶより、すぐに理解できるマイナーな知識を裏情報としてマウントがとれる快感からか、臆測でさえ事実として語られる有様だ。それを鵜呑みにして、一発逆転を狙う構想をよく耳にする。例え犯罪だろうと集団共有され、仲間として承認されれば、誤りを指摘する者はいない。この悪循環こそ、集団処遇の弊害だと感じている。
同囚との会話で印象深かったのは、「現場(仕事)に出たくないけど、お金が欲しいから犯罪に走った。」と話す20代が多かったこと。スマートフォンを使いこなす彼らが、仕事=現場作業(土木・建設・解体等)しか選択肢を持っていないことに驚くしかなかった。

作品ジャンル

エッセイ

展示年

2024

応募部門

自由作品部門

作品説明

受刑の経験を昇華すべく…当事者として再犯防止という社会課題に頭を捻った結果生まれた雑文にして、孤独な思案の集大成。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です