2025年2月1日(土)〜2月8日(土)まで、宮城県仙台市にある「まちとアート研究所」にて開催されている、「獄中からの光」展に行ってきました。この展示は、無期懲役で刑務所に45年にわたり服役している絆さん(ペンネーム)の初となる個展です。企画したのは、絆さんと文通をしている「まちとアート研究所」の代表・門脇篤さんです。本展開催にいたる経緯などを伺いましたので、本記事にてレポートしたいと思います。
門脇さんと絆さんの作品との出会い
門脇篤さんは、仙台を拠点にコミュニティーアートに長年取り組んでいます。その活動は非常に多岐にわたるものですが、その中のひとつのプロジェクトで、40年以上にわたり仙台でイスラム教徒の礼拝所であるモスクの運営に携わるムハンマド佐藤さんを取材しドキュメンタリー映像を制作しました。絆さんの作品との出会いは、このムハンマド佐藤さんを通じてのものとなります。
というのも、佐藤さんは大使館などからの要請により、刑務所に収容されているイスラム教徒の方にコーランを差し入れるということもされていたようです。そして、つい最近になってイスラム教への入信を希望する受刑者に、入信のための儀礼を行うようになったといいます。最初は、佐藤さん自身のお知り合いの方の息子さんからの相談にはじまり、刑務所から許可がおりて無事に入信することができたようで、絆さんもその噂を聞きつけたのか、2023年の夏頃にイスラム教徒に改宗されたそうです。
現在制作中という、ドキュメンタリー映像「獄中からの光」の以下の予告編の中で、佐藤さんが絆さんの作品を取り出すシーンがあります。
絆さんは、佐藤さんとのつながりができたことにより、自身の作品としてなのか佐藤さんへの感謝の印なのか、色紙に描いた絵を送るようになったそうです。展示してあげたいけれど、イスラム教のモチーフでもないのでモスクでの展示は難しく、この作品をどうしたらいいかと考えていたところに、門脇さんと出会うことになります。

そして、門脇さんと絆さんとの文通がはじまります。もともと個展の開催を希望していた絆さんに対して、門脇さんは展示を企画できるとお手紙を書かれたそうです。その後、佐藤さんに連れられて刑務所を訪れ、門脇さんは絆さんとの面会を果たします。
通常、面会は親族や弁護士などでなければ許可されません。文通をしていた相手であったとしても(その記録が刑務所側で確認できても)、許可されないことがほとんどです。しかし、展覧会をひらく打ち合わせをしたい旨を申し入れたところ、許可がおりるまで30分以上待った結果、特別に許可してもらえたといいます。
20代で刑務所に入り、現在は70代となった絆さん。門脇さんとの面会で、個展が開けることがわかった際には、嬉しさのあまり涙で言葉がつまっていたといいます。絆さんのお父さんは刺青の彫り師だったそうで、下絵の修行をきびしく受けてきたといいます。このあとに見る絵は、たしかに、刺青の和彫りを想起するようなイメージです。
絆さんの個展を目指して
門脇さんは、「アート・インクルージョン」という障害のある方との芸術活動の拠点も運営されています。当初は、この施設での展示を考えていたようです。アーケード街にも面しており、展示スペースとしての白壁も広さもあり、「アート・インクルージョン」として、絆さんの個展にちょうどよいスペースであると考えたそうです。
しかし、このアート・インクルージョンで働く職員さんたちから不安の声があがり、この予定は頓挫してしまいます。絆さんから届いた作品の黒いイメージが少し怖かったともいいます。その旨を絆さんに伝えると、明るい絵も送ると答えたそうです。
展示の場所の問題、これはどこでもまだハードルが高いことのようです。「刑務所アート展」も、行政が関わるスペースでは交渉にエネルギーコストがかかり、あるいは公的な助成金などもなかなかおりません。刑務所の中の表現を刑務所の外の人々が受け取るための、準備体操のようなものが必要です。
そこで、門脇さんは保護司のかたなどを招いたオンライントークも企画されています。
結果として、門脇さんが子どもたち向けに塾などを開いていた一室、「まちとアート研究所」での開催が決まります。門脇さんの個人プロジェクトとして、本展はスタートしました。
展示風景
展示では、門脇さんと絆さんとの間でやりとりされた、文通が往復書簡としてキャプションで展示されており、そのやりとりの合間に絵があるというような構成をとっています。絆さんからの手紙も、実物がファイリングされて閲覧できました。
「刑務所アート展」は、多くの応募者の作品をすべて展示するので、この「個展」という形式はとても新鮮に思えました。一人ひとりと丁寧に文通のやりとりをしていきながら、展示を構成していくということもいつかしてみたいとも思いました。
私(風間)が訪れた日は、「見て話す会」という来場者と門脇さんとが話しながら絵を見る場が開かれていました。絆さんはどんな人なのか、面会をした第一印象はどうであったか、門脇さんから本展にいたるまでのさまざまな経緯を説明してくださいました。
そして、そこにムハンマド佐藤さんも偶然訪ねてきました。
佐藤さんは、刑務所でいわゆる宗教教誨を行う人ではなく、あくまで一般面会で受刑者と関わっており、入信の儀礼も面会室で行うそうです。刑務所の中で、イスラム教徒としての生活をしていくのは、相当に難しいだろうと話します。食べられるもの、祈りの時間、その他さまざまな戒律を守れるような暮らしではないだろうと。
絆さんもどこまでイスラム教を学んでいるか、佐藤さんという“関わってくれる人”を見つけただけなのか、よくわからないそうです。それでも、こうして展示がひらけたことはすばらしいと。
これは、絆さんの自画像。若い頃のイメージだろうと、門脇さんや佐藤さんは語ります。面会して会った感じは、もう少し痩せていたと。
そして、こちらが絆さんから佐藤さんに最初に届いた作品。刑務所では色紙の仕様は許可物品に含まれているので、色紙を使った作品も数多くありました。
ご本人の希望で、これらは値段がつけられ販売もされていますが、これらがどこかへ離散してしまうのは非常にもったいない気も。。。
展示入り口には、「刑務所アート展」のカタログや関連資料、来場者がコメントを残していけるメッセージ・ノートがありました。
本展は、2月8日(土)まで。お近くの方はぜひ足を運んでみてください。
「獄中の画家「絆」個展《獄中からの光》」
会期:2025年2月1日(土)〜8日(土) 13:00-19:00
会場:まちとアート研究所(仙台市青葉区片平1-3-2-504)
展示Webサイト https://kizuna45.mystrikingly.com/
門脇さんのnote 「無期懲役の彫師「絆」氏の個展を開くまで」 https://note.com/atsushikadowaki/m/m73c9fc6d411d