作品タイトル
あなたへ
作者
穂積大好
作品本文
ずっとあなたに謝りたかったです。本当にごめんなさい。
この言葉を手紙ではなく、直接伝えたかったのですが、今の私にはそれができませんし、その資格はありません。
あなたはきっと私のことを覚えていないと思います。あなたと最後に会ったのは、あなたが2歳の時でしたから。
アクリル板越しに見るあなたの無邪気な笑顔に何度も救われ、励まされました。あなたの笑顔は私にとってまさに天使のようで今も私の頭の中で鮮明に甦ります。
手を伸ばせば届く距離にいるのに触れられない、抱きしめてあげられないことがもどかしく、自分の犯してしまった罪の大きさ、重さを思い知りました。
あなたは私のことをずっと「おじいちゃん」と呼んでいましたから、父親という認識はなかったのだと思います。それは仕方無いことです。なぜなら、あなたがまだ生後5ヵ月の時に私とは離れ離れになってしまったのですから。
父親として何一つしてあげられなくてごめんなさい。父親がいなくて寂しい思いをさせてしまってごめんなさい。父親がどういう存在なのかを知らないまま育つことになってしまったこと、片親という周りの友達とは違う家庭環境であり、経済的にも貧しく、不憫な思いをさせてしまったこと、本当にごめんなさい。
このことをずっとずっとあなたに謝りたかったです。
あなたは何も悪くなくて、悪いのは全部私なのに、あなたにまで私の罪を背負わせ、苦しく辛い思いをさせてしまったことを本当に申し訳なく思っています。それが私の最大の罪であり、罪を犯してしまったことを心の底から後悔しています。
私は父親としても人としても失格の最低な人間で、こんなことを言う資格も願う資格も無く、思うことすら許されないことだとは分かっていても思わずにはいられません。
「あなたに会いたい」
そう思い続けて今日まで生きて来ました。そしてこれからもこの思いは変わることはありません。
あなたは私の存在すら知らないかもしれませんし、知ったとしても会いたくないと思うのが当然です。ですから「会ってほしい」とは言えませんし、言うつもりもありません。ただ「あなたに会いたい」という思いは捨てようと思っても捨てられない、消そうとしても消せない私の想いです。あなたへの想いはこれから先もずっと変わりません。
私の中であなたはただ一人の大切な娘であり、最愛の人です。
私の手元にはあなたが2歳の時の写真があります。私の記憶の中にも2歳のあなたがいます。夢で会うあなたもずっと2歳のままです。時が止まったままで、あなたが2歳のままだったらどんなにいいだろうと思います。しかし、現実の時間は無情にも止まらず流れ続けています。
あなたは2025年1月で19歳になりますね。私の知らない17年間をどう過ごしたのか、どう成長していったのかを隣りで見ることができなかったことが無念であり心残りです。
あなたがどんな女性に成長したのかは想像するしかありませんが正直全く想像できません。私に似ず、綺麗で賢い女性になっていると思いますが、その姿を想像するのは至難の業です。でも、あなたを見れば、私の娘だと言い当てられる自信はあります。理由や根拠はありませんが、きっと感じるものがあるはずだと信じているからです。
私とあなたは二度と会うことはありませんが、私はこれからもあなたを想い続け、遠く離れた場所からあなたを応援し続けます。
手紙という形ですが、謝りたかったことやあなたへの想いを伝えられてよかったです。一方的な手紙になってしまってごめんなさい。
あなたからの返事も欲しいですが、それは欲張り過ぎだと思うので、こうして手紙を書き、あなたに私の想いの全てを伝えられただけで大満足だと思って筆を置こうと思います。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
あなたが光輝く未来に向け歩み続け、幸せな人生を手に入れることを心から願っています。
あなたの応援者兼ファン第一号より
作品ジャンル
手紙
展示年
2025
応募部門
テーマ部門①「あなたへ」
作品説明
17年間会っていない娘へ宛てた手紙です。最後に会ったのは娘がまだ2歳の時で私のことを父親と認識していなかったので、きっと私のことは覚えていないと思います。妻とは離婚して妻と娘の居場所が分からず、二度と会うことはないですが、娘への愛や想いは私の中からなくなることは絶対にありません。今までは自分の中だけにしまっていて誰にもうちあけたことがない想いを、この機会に思い切ってはき出してみようと思い作品として出すことにしました。手紙を書いていて娘に対する愛の深さに改めて気付くことができました。娘にも是非読んでもらいたいですが、それができないので、皆様に私の想いが伝わればそれ以上の幸せはありません。どう感じたか率直な感想を頂けたら幸いです。