作品タイトル
あなたへ
作者
ミー太郎
作品本文
あなたは私のことを覚えていますか? お母さんから話を聞いてますか?
あなたが生まれて来てくれた頃が、私にとって一番幸せな時でした。
あなたのお母さんは、とても素敵な方でした。いつも笑顔で明るい方でした。
誰にでも明るく接するので、友人も多く、誰とでもすぐ仲良くなれる方でした。
嫌な事、辛い事も多く経験してたのに、そんな時こそぐっと堪え、笑顔で過ごすように努める方でした。そんな彼女に惹かれ、一緒になることができ、幸せな日々を過ごすことができていたのに、彼女のことを疑うようになり、私の居場所が無いと勝手に不貞腐れ、除々におかしくなって行きました。
あなたに妹ができると分かった時が彼女を疑うようになったきっかけです。真偽は今も分かりません。しかし、妹が生まれてからも表向きは変わらず生活していました。私はあなたのことも、妹のことも大切に接していました。が、仕事を常に優先していたので、一緒に過ごす時間は短かかったです。
今、振り返れば、あなたのお母さんが、そんな時でもきちんと家庭を守り、私のことも支え、あなた達へも愛情たっぷりに接していたことは分かります。そんな素敵なお母さんのこと、当時の私は信じていなかったのです。
私は見栄っ張りでした。周囲の人に良く思われたくて、身の丈に合わないこともやっていました。すぐ人に嘘もつきました。自分を正当化し、自分勝手な言動も沢山とっていました。一番、私に嘘をつかれたのはお母さんでしょう。
「あんたは嘘ばかり…」と何度言われたか分かりません。後先考えず、もう信じれれないお母さんと一緒に暮らすのは限界と、離婚を申し出た時、彼女はあっさり承諾したのです。唯一、親権だけは譲らんよ…と、あなたと別れることは嫌でしたが、お母さんや妹と暮らすのは、もうしんどい…となっていた ので、2人の親権は譲る。ただ、2人が拒否しない限り、会いに行くことは認めて欲しい…ということを条件にお母さんと別れました。
離婚してから一度だけ、あなた達に会いに行きました。公園で遊び、お昼ご飯を食べましたね。わずかな時間でしたが、私にとってはとても良い時を過ごせ ました。なのに、その半年後、私は事件を犯します。人の命を奪うという大罪を犯します。そして今、刑務所にいます。当時の私は人を殺したら死刑になると思っていました。死にたいから命を奪ったのではなく、死刑になっても仕方ないが、この人だけは許せない…という強い殺意から、私は大罪を犯しました。
今となっては、それがどれ程間違いなのか、他に方法(罪を犯さず相手に話をする方法)なんかいくらでもあったのかは分かります。被害者やご遺族の方々のことを思うと、今も私は生かされていることは申し訳なく思っています。償うことなどできませんが、何をすれば少しでも憎いになるのか、ずっと考え続けて生活しています。私が生きていることは、ご遺族には耐え難いことでしょう。ここにきて、もうすぐ20年になります。自分の犯した事件のことを忘れた日は1日もありません。毎日祈りをしています。
あなたのことも、あなたのお母さん、妹のことも忘れたことはありません。
この20年、あなたがどのように成長されたのかは全く知りません。お母さんのことを考えると、立派に育ててくれたのではないかと思っていますが、いずれにせよ、大変な苦労はされたことでしょう。その苦労の元凶は私ですね。
本当にごめんなさい。お母さんにしてみれば、離婚した時、又は、私が事件を犯した時に、私の存在は消えたもの…として扱われているかもしれません。なので、あなたは私のことは知らないかもですね。この先一生あなたと関わることもないと思います。おそらく私はここを出れることはないし、万が一、出所できたとしてもあなた達を探すことは絶対にしません。だけど、あなた達のこと、ずっと祈っています。健やかに幸せに過ごして欲しいと。
この手紙を書いているのは、丁度あなたの誕生日です。離婚後、あなたの誕生日にお祝いを送れたのは1回だけでしたね。毎年、祈りの中でお祝いはしていますが。沢山の方に祝福されていると良いのですが…。
有名人の方であなたと同じ年の方を見つけると、特にスポーツ選手は応援しています。あなたがどんな大人に成長し、今、どんな仕事をしているのか分かりませんが、あなたを応援する気持ちも込めて、応援しています。
あなたには、本当に幸せになって欲しいと願っています。何もしてあげれず、逆に苦労をかけることをしてしまい、何も言える立場の私で、申し訳ないですが、あなたの幸せは切に願っています。毎年大きな災害が起き、感染症もあり、大変なことの多い世の中になってきていますが、くれぐれもお身体大切にし元気で幸せな日々を過ごして下さい。
あなたとあなたの家族、友人、知人の方々が豊かな日々を送れますように。
ミー太郎より
作品ジャンル
手紙
展示年
2025
応募部門
テーマ部門①「あなたへ」
作品説明
息子へ手紙を書いてみたかった。何もできず、謝りたい気持ち元妻への想いも伝えたかったが、想いを全て書くことはできなかった。何もしていないから、親とは言えないけれど、子供たちの幸せをずっと想っていることは届かなくても伝えたかった。