作品タイトル
誓い
作者
蜂野文也
作品本文
あなたへ
今、5年前にあなたから貰った手紙を読み返してたんやけど、連絡が取れへんようになってから、もう5年が経つんやね。
連絡が取れへん原因は過去の俺の行動にあるんやけど、やっぱりしんどいわ。
でも、これで良かったのかもしれん。
あなたの気持ちを一番理解できるのは、俺やと思うし、俺の気持ちを一番理解できるのも、あなたやと思う。
この事は今までの15年間がそうだったように、これからの15年間もきっと変わらへんと思うねん。
せやから、今はあなたが少しでも早く出られるように俺とは距離を置く。きっとこれが正しいんやと思う。
俺はガキの頃からヤンキーや不良やと言われとったけど、自分の事を少しはマシな人間やと思っててん。
世の中には、もっとヤバくてクソ酷い奴が腐る程いる。
俺はそんな奴らとは違う、俺なんか大した事ないって思っとった。
でもな、刑務所に来て思った。
確かに俺より酷い奴はいる。でも俺も相当酷いなって。
あなたも知っている通り、俺は今回の判決に全くもって納得してへんし、再審も考えとる。
ただ、ホンマに再審をするとしても、結果が出るまでかなりの時間がかかる。それまでは、やっぱり刑務所で生活せなあかんやろ?
それやったら、利用できる事は、とことん利用してやろうと思うねん。時間もったいないしね。
実は同じ工場に俺の行ってた中学の隣の中学の先輩がおるんよ。って言うても、年は7個上やけど。
M井さん言うねんけど、俺は下の名前に兄を付けて呼んどるんよ。R兄(にい)ってね。
R兄はホンマに兄貴みたいな人で、どんな相談にも乗ってくれて、適確なアドバイスをくれる。俺にとってのメンターであり、バランサーでもあるマジで大切な人。
R兄がこの前俺にこんな事を言うてくれてん。
「確かにお前は物事を合理的に進めてるんだけど、目的や目標が変わると何が合理的かってのも変わってくるんだ。だから、もっと大きな先の目標を持ってみないか?お前は頭も良いし、要領も良い。そして物事を冷静に判断する力もある。だから、人に使われる立場ではなく、人を使う立場、つまり経営者側に立てる人間だと俺は思ってる。
それは、持って生まれた者の宿命なんだよね。
まぁ困ったらなんでも言ってこい。俺にとってお前は特別だからよ。大丈夫。心配すんな。お前ならできるよ。」
俺ね、担当の職員から「お前の唯一にして最大の欠点は、人間関係の構築だ」ってずーっと言われてたんやけど、R兄に相談して、さっきのように言われてん。(他にも色々言われた)
そのおかげで、何をしたらええのかが明確になったんよ。
で、今は担当の職員も「最近、凄く良いぞ!」って何度も言うてくれてて、周りの同衆からも「なんか最近良いね!」って声をかけてもらえるようにもなった。
俺はこの調子で、必要なもんも、足りひんもんも、全部手に入れて、あなたが一人で抱えて背負っとるもんを俺が代わりに背負えるぐらいにデッカイ男になって迎えに行くから待っとってな。
俺は生きていく上でこれだけは譲れへんってもんが3つある。
①あなたの事。②仲間の事。 ③自分の事。
3つの中の順番も書いた通り。つまり俺にとって、あなたは俺自身を含めた他のどんな事よりも最優先事項って事。
俺にとってあなたは特別なんよ。
あなたが笑えない時は俺が笑かしたる。
あなたが泣きたい時は俺が一緒に泣いたる。
あなたが寂しいと感じた時は俺が側におったる。
あなたが希望を求めるなら、俺があなたの希望になる。
あなたが居場所を求めるなら、俺があなたの居場所になる。
だから未来を想像して不安に思う必要なんて全くない。
俺は自分の人生の目的をハッキリ明確に決めた。
だからもう迷うことはない。これからは最短距離を行く。
だから、あなたも安心してついてきてくれていい。
もし世界中があなたを否定するなら、たった一人になっても最期まで俺が世界中を否定し続けたる。
俺はあなたがいれば最強だから。
大丈夫。俺らが一緒にいれば怖いもんなんてない。
どんな壁でも乗り越えて行けるよ。2人でなら。
ほら、手を繋いで。もう2度と離さへんからな。
行こう!明るい未来へ!!
蜂野文也
作品ジャンル
手紙
展示年
2025
応募部門
テーマ部門①「あなたへ」
作品説明
伝えたいことが多く、何を削り、何を残すのかものすごく悩みました。
綺麗にまとまってはいませんが、だからこそ伝わるものもあるかと思い、今の形を完成としました。
僕が表現しきれなかった、ものを感じていただけたら嬉しいです。