国際文化政策学会にて「反抑圧的実践としての『刑務所アート展』」について研究発表を行いました

2024年8月19日〜22日に、ポーランドのワルシャワ大学で開催された「国際文化政策学会(ICCPR:International Conference on Cultural Policy Research)」のバーチャルセッションにて、風間勇助が研究発表を行いました。

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タイトルは「Prison Art Exhibition as Anti-Oppressive Practice(反抑圧的実践としての刑務所アート展)」です。過去2回開催した刑務所アート展を振り返り、AOP(Anti-oppressive Practice)の視点からこのプロジェクトの意義や課題を検討するものです。

AOPは、ソーシャルワークの領域で発展してきた概念で、「反抑圧的実践」と訳されたりします。日本では『脱「いい子」のソーシャルワーク:反抑圧的な実践と理論』(坂本いづみ他、現代書館、2021年)の中でくわしく紹介されています。

AOPにおいて、「抑圧」とは「人々が日々社会で感じている様々な「生きにくさ」や、「モヤモヤした違和感」、「やりきれなさ」、ひいては「絶望感」として現れてくる」(p.11)と説明されています。そしてこの生きにくさは、自己責任などによるものではなく、「構造的な力の不均衡に端を発する」(p.11)と考えます。

したがって、AOPの目標は「社会のなかでの力の不均衡を認識し、その権力構造、そしてその結果として起きている抑圧を是正するために、変革の促進に取り組むこと」(p.12)、「社会から様々な抑圧をなくし、みんなが自己実現できる社会」(p.12)を目指すことです。

ソーシャルワークの現場では、常に「支援する人/支援される人」という関係性が生じます。この関係性の中にある力の不均衡を反省的に捉えること、あるいは、支援対象となっている人が抱えている問題が、その人個人の特性から起こっているのはなく、広く社会構造が生み出していると捉え、ではその社会構造を変えていくために何ができるか、そのように考えることがAOPということになります。

このAOPにおいて、アートがもちうる可能性も指摘されています。著者の一人坂本いづみさんは「日々の実践に追われ、抑圧的な現実から脱却できないと感じているソーシャルワーカーが、アート/芸術を介して当事者の経験をもっと感覚的に受け止める機会が増えたら、現実の打開策、今まで考えもしなかったような方法が出てくる可能性もあるかもしれない」(p.51)と述べます。

今回の研究発表で、刑務所アート展もまた「当事者の経験を感覚的に受け止める機会」と考え、展示を振り返って検討をしました。Abstractは次のとおりです。

This study examines the possibilities and challenges of viewing art activities in Japanese prisons as Anti-Oppressive Practice(AOP). AOP is an approach that considers people’s difficulties in life as oppression brought about by social structure and aims to change that social structure. In cultural policy, a major rationale for investing cultural budgets in the criminal justice area may be the recidivism prevention effects of its arts programs. Numerous studies have pointed to the effect of prison arts programs in bringing about positive changes in inmates and reducing the risk of recidivism. However, there are many different aspects that inmates’ expression communicates to society, and the AOP approach could give a voice to inmates who have traditionally been voiceless, and reconsider the difficulties they have faced in life as a problem of social structure or a challenge in the criminal justice system.
The uniqueness of this study is that the author himself practiced the activities of a prison art exhibition, one of the few in Japan, and based on the data obtained from this experience, he discussed the results of his study. The study also points out that prison art, conventionally viewed as art for rehabilitation, has the effect of connecting and visualizing various relationships between prison and society, and bringing public discussion to society through such dialogue.

本研究は、日本の刑務所における芸術活動を反抑圧的実践(AOP)として捉えることの可能性と課題を検討する。AOPとは、人々の生きづらさを社会構造がもたらす抑圧と捉え、その社会構造の変革を目指すアプローチである。文化政策において、刑事司法分野に文化予算を投入する大きな根拠は、その芸術プログラムによる再犯防止効果であろう。受刑者にポジティブな変化をもたらし、再犯のリスクを減らすという点で、刑務所の芸術プログラムの効果を指摘する研究は数多い。しかし、受刑者の表現が社会に発信する側面は様々であり、AOPのアプローチは、従来声なき声であった受刑者に声を与え、彼らが人生で直面した困難を社会構造の問題や刑事司法制度の課題として捉え直す可能性がある。
本研究のユニークな点は、日本でも数少ない刑務所アート展の活動を著者自身が実践し、そこから得られたデータをもとに考察したことである。また、従来は更生のためのアートと捉えられてきたプリズンアートが、刑務所と社会のさまざまな関係をつなぎ、可視化し、その対話を通じて社会に公的な議論をもたらす効果があることを指摘する。

*参考

・13th International Conference on Cultural Policy Research https://iccpr2024.wnpism.uw.edu.pl/

・坂本いづみ他(2021),『脱「いい子」のソーシャルワーク:反抑圧的な実践と理論』、現代書館

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