作品タイトル
リュウ
作者
気づきが始まり
作品本文
みんな俺の周りに集まってくれる。俺にそんな魅力があるとは思えないけどみんなに可愛いがってもらえた。俺の名前はリュウ。最後に会えなかった。今までに沢山ケンカしてきた。叩かれ、怒られた。坊主にされたのだって、一回や二回じゃないよ。毎年恒例で、何度刈られたことか。シッポだけ残したり、ヒゲだって切られた。俺らはヒゲで平衡感覚をとっているのにさ。ほんと酷いよ。
盗み食いがバレると、いつも俺が疑われる。チャンスは、お母さんやおばあちゃんがキッチンで料理して目を離してる間。お兄ちゃんはコッソリと刺身一枚くれたり、盗み食いを黙認してくれたりするクセに、自分の機嫌が悪いとすぐ怒って、鼻の頭を叩くんだ。確かに俺が怒られるようなことしたから仕方ないけど、もうお母さんに怒られたんだから放っといてくれ、と思うけど、隠れ場所がないから、すぐお兄ちゃんに見つかって、「やだなー、今度はなんだよー。」と思ってたら、ものすごく優しくて、いっぱい撫でてくれる。癖っていうか、しっぽの付け根をワシャワシャされると全く抗えなくて、右手の甲をムシャムシャしちゃうんだよな。しっぽの付け根以外は大丈夫なのに、そこだけをピンポイントで触られるともうお手あげ。ww お母さんはお母さんでノミ取りついでに俺の顔を見ながら、気持ち良さそうな所を探るようにお腹を撫でまわしてくれてた。リードをつけて散歩に連れて行かれたこともあるけど、地域一帯でケンカ番長の俺が、リードをつけられて散歩“させられてる姿”なんて他の奴に見られやしないかとヒヤヒヤしたよ。
いつの頃からか、お兄ちゃんが家にいる時間も少なくなって、朝登校する前なんて、めちゃくちゃ避けられてた。玄関まで行ったら撫でてくれるかなーと思って毎日行くんだけど、頭をポンポンとされるだけ。
いつ頃だったかな。お兄ちゃんが消えたのは。お母さんとおばあちゃんは前の夜にどっか遠くに行く話をしてたけど関係してたのかな。お母さんとお兄ちゃんが帰ってこなくなった日は一緒だったから、多分そうだったんだろうな。
その後、再会したのは、何年後だったかな。新しい大きなお家に移って、全く知らない世界に来たようだった。クロとミクが一緒にいたから、家で大人しくしてた。キャットウォークもあって、新しい弟分たちも、何匹か増えた。
いつからか、身体の調子は悪くなるばかりで歯茎から膿が出るわ痛いし、だるいし。大好きだったカリカリご飯も満足に食べられなくなっちゃって、どんどん痩せていった。もう限界かも…。とか苦しい時期もあったけど、家で大人しくしてればなんとかなった。口から垂れる膿は拭き取ってくれたし、もうちょっと頑張ろうって。そしたらたまに、お兄ちゃんが現れて、時間は短かいけど、心配して声かけて、顔を拭いてくれた。「クッセー」とか、騒いでたけど、何度も々々撫でてくれた。実家なのに、たまにしか帰ってこなくて、お兄ちゃんは、まるで猫みたいに気まぐれで気分屋で、まったく都合のいい人だ。なんて思ってた。
眠ってる時に色んなことを思い出して、夢のまま遠永の眠りになっちゃったりしちゃわないよね!?大丈夫かな。っていう考えが脳裏を過ぎると眠りから覚めるってことが、だんだんと解ってきて、毎日それが過ぎるまでの間に過去のことを振り返って深層に迫るのだが、なかなか難しいことで、かなり時間がかかった。
最初にお兄ちゃんに会ったのは、小雨がパラつく午後のこと。その頃は、お兄ちゃんとは、全然呼べないような幼いキンキンした声で何人かが、近寄ってきた気配がした。“ぼく”はまだ目を開けられてなかったからどこに誰がいて、何がなんなのか分からなかったけど、冷たい地面からほんのり暖かい小さな肉球のような感触の上に乗せられた。一定のリズムで、ちょっと揺れながら10分くらいだろうか。到着するまでの間、心地よくもあり、ウトウトしてた。
ぼくは、「ミー、ミーミー」と鳴いてたと思う。そしたら今度は、肉球の感触も違う大きな、それの上に乗せられ、首根っこを掴まれて宙ぶらりん。ぼくは全く身動きがとれず固まった…。
そう。ここから始まったんだ。もう20年近く前の一番最初の“龍之介”の記憶。多分、リュウが帰ってこなくなった前日に夢を見て最後に私に会っておきたかった。刑務所にいる私に。
探したけど見つからなかった。リュウは、なんで見つからないんだろうって、そんな気持ちで逝ったんじゃないかな。
リュウは私と会えなかったけど、最後に自分の亡骸を見て、自分が“猫だったんだ”。ということに気づいてリュウ自身もビックリして、同時にこれからどうしていくかも考えたんだろうな“龍之介”。
作品ジャンル
エッセイ
展示年
2025
応募部門
自由作品部門
作品説明
僕が小学生の時に拾ってきた最愛の猫についてです。
刑務所にいる今、考えて想っていることを書きました。