Prison Arts Connections(PAC)の運営メンバー・鈴木悠平が所属する、デジタルアーカイブ学会の「第4回DAフォーラム」にて、「刑務所アート展」応募作品のデジタルアーカイブ構築についての実践報告をしました。
服役中のため自由に作品を発表することのできない受刑者たちに代わって、作品を預かり、発表し、アーカイブする過程での論点・注意事項(作品募集方法、権利処理、アクセシビリティなど)に触れながら、集まった作品と作品に関する情報(作者名や作品ジャンル、作品説明)をどのようにデータ化し、誰もがアクセスできるデジタルアーカイブとして公開したかを報告しました。
以下のページで、フォーラムでの報告前に作成した予稿を公開しています。
[14] 実践報告:「刑務所アート展」応募作品のデジタルアーカイブ構築:受刑者たちによる表現活動を塀の外に届ける
また、フォーラム当日に使用した発表スライドもSlideshareにアップしています。
本報告の手順で構築したデジタルアーカイブは、本サイトの「ギャラリー」ページとして公開しています。
受刑者たちによる芸術活動は、受刑者個々人の変容だけでなく、外からは見えにくい刑務所内の環境や、そこで過ごす受刑者たちの経験を知る手がかりとなったり、刑事司法制度下にあるさまざまな当事者の対話の機会の創出につながったりと、刑務所外の社会にも多様な影響をもたらし得ます。私たちPACの「刑務所アート展」以前にも、「死刑囚表現展」や刑務所主催の「矯正展」といった一般公開の展示会の事例はありましたが、まだまだ数は少なく、作品のデジタルアーカイブは見られていません。
今回、刑務所アート展の全応募のデジタルアーカイブを残したことで、展示会期外や展示会場(過去2回は東京で開催)以外の地域でも、自由に作品にアクセスし、鑑賞することができるようになりました。もちろん、展示会場での鑑賞体験とWebサイト上での鑑賞体験はまた違ったものとなるでしょうが、上に述べた通り、刑事司法分野の芸術表現に触れる機会は日本ではまだまだ限られており、時間や場所を問わず受刑者の作品にアクセスできるデジタルアーカイブを残す意義は大きいと考えています。
また、Zoomなどのビデオ通話ツールと組み合わせて、オンラインでの作品鑑賞ワークショップなどに活用することも考えられます。第2回刑務所アート展の会期中に、来場者が作品を鑑賞して感じたこと、考えたことをグループで共有する「哲学対話」を実施しましたが、こうした対話プログラムをオンラインで実施することも可能だと思います。
作品および作品情報をデジタルデータとして公開したことで、学術研究での活用可能性も生まれました。応募作品のなかには、刑務所内の規則や生活環境、刑務作業や余暇活動の様子、受刑者と刑務官との関係、受刑者本人の一人称的体験が直接的・間接的に描かれているものも少なくありません。質的研究を通して、刑務所内での受刑者たちの生活実態や、処遇に関する課題を抽出することができるかもしれません。
刑務所アートとそのアーカイブに関する研究・実践にご関心をお持ちの方は、ぜひ発表原稿・スライドもご覧いただけると幸いです。上記の例に限らず、刑務所アート展のデジタルアーカイブを活用した学術研究や学習プログラムのご提案・ご相談は大歓迎です。お気軽にご連絡ください。